今年は、個人的に好きな店がそろって1つ星に上がったのが嬉しい。
筆頭は、ウィリアム・ルドゥイユのズ・キッチン・ギャルリー。ウィリアムの料理は、彼がレ・ブキニストのシェフだった頃から、もう10年来、食べてきた。スマートでセンスのよい彼の料理は、パリという場所にぴったりの味。独立してからはアジアの味を巧みにフランス料理に応用した、独特の料理を展開。前のミシュランなら評価しなかっただろう料理だが、今のミシュランはこういうのが好き、の典型だね。
大好きだったメートルドテルのエリックさんが、うちのシェフだヨ、とウィリアムを紹介してくれてから10年。料理人の成長の仕方や、レストランの変わりかたを、彼を通していろいろ学んだ気がする。
フランス北部ピカルディー地方にある、レ・グルヌイエール。名前の通り(カエルの多い沼地)カエルがたくさんいるのかどうか、私はまだ確認していない。行ったことがないから。でも、この店をやっているアレクサンドル・ゴティエの料理は知っている。数年前、パリのフードフランスイベントで味わった、華やかで凛とした料理に感動したっけ。アレックスの若さを髣髴させる、意思が強く語りたいことがはっきりした気持ちのよい料理だった。その後、パリや地方のイベントで何度かアレックスの料理を食べてきたが、そのたびに彼の感性のよさに感服してきた。
個人的には、去年取ってもよかったんじゃないかと思う、遅すぎる星獲得。カエル色の瞳を持ち、水の中にいるのが大好きなアレックスにブラヴォ!
イル・ヴィーノもオープン早々、星つきレストランの仲間入り。
ル・サンクのシェフソムリエだったエンリコ・ベルナルドー。2004年に世界最優秀ソムリエのタイトルを得て、一昨年独立。地中海に面した美しいリゾート地カシに一昨年の冬ワインレストランを開いた後、去年、パリにも店をオープン。続けて、冬のトップリゾート地クールシュヴァルにも同じ店を開いたばかり。
ソムリエであるエンリコらしい発想がチャーミングなコンセプト。この店には料理メニューがない。あるのは、ワインリストのみ。好きなワインを選ぶと、それによく合う料理がおまかせで出てくる。料理を選んでワインはおまかせ、はよくある話だが、その逆の発想。さすがはエンリコ!と唸るような、ワインと料理の素晴らしいマリアージュを見せてくれる。
料理は正直なところ、味的に1つ星のレベルに達している、とは思わないけれど、ま、全体的にみて、かなりいい店だし大好きな場所なので、素直に嬉しい。
カシの店、ヴィラ・マディも1つ星。ミシュランのお気に入りっ子だね、エンリコ。
和食店も1つ星に輝いた。
7区にある「あい田」。出来たのは4~5年前だったかな?鉄板焼きがメインの小さな店だが、使う食材がもう最高。パコーさんやパスカルら、3つ星シェフ御用達の肉店に毎日のように足繁く通って手に入れる素晴らしいフランス産牛肉を見事に焼いてくれる。魚の焼き方ももちろん抜群で、クリエイション系料理も美味。シンプルシックな雰囲気も居心地よく、とてもいい店。タイミングよく、JALの機内誌スカイワードの今月号に紹介されています。野地秩嘉さんの軽妙な文章で。JALに乗ったら読んでください。コーディネーションだけさせてもらった取材です。
リッツのエスパドンが相変わらず1つ星のままなのは、本当にどうかと思う。余裕で2つ星クラスだと思うのだけれど、あの純粋なクラシックに優しさをまとった料理は、ミシュランの好みではないのかもね。料理界の7不思議のひとつ、と数えられているエスパドンの1つ星、いつまで続くことやら、、、。
ラセールも2つ星のまま。3つ星エスポワールになってもいいんじゃないかなあ、と、冬に食べた恐ろしくおいしい野うさぎの血煮込みを思い出す。まあ、まだ時間はある。あと数年もすれば、フランス料理の歴史を彩ったこの名店中の名店が、新たに栄光をつかむと思うな、私は。
名前を消してしまったレストランの中で、最も胸が痛んだのが、ジャック・マキシマンの引退。
中学生のころに図書館で手にしたフランス料理の本の中で、とりわけ印象に残った料理人の名前。内容ももう覚えていないくらいだけれど、この名前だけは私の頭の中にしっかり刻まれ、いわば、フランス料理に興味をもったきっかけだった。
初めてフランスに住んだときは、マキシマンは休業中で彼の料理を食べることは叶わなかったが、会社を辞めた直後のヴァカンスでは、前年にオープンしていた彼の店を目指して、コートダジュールに駆けつけた。真夏の太陽を浴びながらのテラスでのランチは、15年くらいも前に文字を通して想像したとおりの味で、体中に幸せを感じた。
無条件に溺愛している初恋のシェフと、去年は、同じテーブルで食事をする機会や、話をする機会が何度かあり、特に一緒のテーブルに着いた時には、フランス料理に携わる仕事が出来て本当によかった、と心から思う数時間だった。
フランス料理界の鬼才、恐るべき子供、と呼ばれ、フランス料理のあり方に大きな衝撃を走らせたマキシマンがついに引退した。こんな料理人はもう2度と、料理界に現れないだろう。恐ろしいほどのテクニックと野蛮なまでの感性、そのなかに漂う南仏の悦楽。誰もが認める最高の料理人の1人でありながら、彼は一度も3つ星を手にしたことがなかったかな、多分。ネグレスコでも、彼の店でも。いつも2つ星だったと思う。
彼の料理を食べる機会があって、彼と同じ時代に生きられて幸せだ、と思わせてくれる料理人が何人かいる。ロビュション、ジラルデ、ゲラール、パコー、ヤニック、、、。マキシマンは私にとって、そんな料理人たちの中でも一番大切な人だ。
名前を消した、という意味で、ロワール地方の2つ星、ジャン・バルデの引退も感慨深い。初めてフランスに住んだとき、初めて訪ねた地方の星つきレストランだった。それ以来、つまり10年以上も前に行ったきり一度も再訪しなかったが、去年、バルデと一緒に食事をする機会があり、当時のことを懐かしく思い出した。
マキシマンやバルデといった、二昔前の名シェフが引退するのは、なんとも寂しいものがある。時代は流れるし、若い料理人たちがどんどん台頭しているのだから、これも当然のことなのかもしれないけれど。
料理人の最盛期がつづくのは10~15年、と、三田コート・ドールの斎須さんが言っていた、と聞いた。きっとその通りなのだろう。だからこそ、その旬な10~15年の間に、彼らの料理にきちんと向き合いたいと思う。演奏家と同じだね。
同じ時代をすごせた僥倖を受け止め、彼らがくれる幸せを感じたい。
筆頭は、ウィリアム・ルドゥイユのズ・キッチン・ギャルリー。ウィリアムの料理は、彼がレ・ブキニストのシェフだった頃から、もう10年来、食べてきた。スマートでセンスのよい彼の料理は、パリという場所にぴったりの味。独立してからはアジアの味を巧みにフランス料理に応用した、独特の料理を展開。前のミシュランなら評価しなかっただろう料理だが、今のミシュランはこういうのが好き、の典型だね。
大好きだったメートルドテルのエリックさんが、うちのシェフだヨ、とウィリアムを紹介してくれてから10年。料理人の成長の仕方や、レストランの変わりかたを、彼を通していろいろ学んだ気がする。
フランス北部ピカルディー地方にある、レ・グルヌイエール。名前の通り(カエルの多い沼地)カエルがたくさんいるのかどうか、私はまだ確認していない。行ったことがないから。でも、この店をやっているアレクサンドル・ゴティエの料理は知っている。数年前、パリのフードフランスイベントで味わった、華やかで凛とした料理に感動したっけ。アレックスの若さを髣髴させる、意思が強く語りたいことがはっきりした気持ちのよい料理だった。その後、パリや地方のイベントで何度かアレックスの料理を食べてきたが、そのたびに彼の感性のよさに感服してきた。
個人的には、去年取ってもよかったんじゃないかと思う、遅すぎる星獲得。カエル色の瞳を持ち、水の中にいるのが大好きなアレックスにブラヴォ!
イル・ヴィーノもオープン早々、星つきレストランの仲間入り。
ル・サンクのシェフソムリエだったエンリコ・ベルナルドー。2004年に世界最優秀ソムリエのタイトルを得て、一昨年独立。地中海に面した美しいリゾート地カシに一昨年の冬ワインレストランを開いた後、去年、パリにも店をオープン。続けて、冬のトップリゾート地クールシュヴァルにも同じ店を開いたばかり。
ソムリエであるエンリコらしい発想がチャーミングなコンセプト。この店には料理メニューがない。あるのは、ワインリストのみ。好きなワインを選ぶと、それによく合う料理がおまかせで出てくる。料理を選んでワインはおまかせ、はよくある話だが、その逆の発想。さすがはエンリコ!と唸るような、ワインと料理の素晴らしいマリアージュを見せてくれる。
料理は正直なところ、味的に1つ星のレベルに達している、とは思わないけれど、ま、全体的にみて、かなりいい店だし大好きな場所なので、素直に嬉しい。
カシの店、ヴィラ・マディも1つ星。ミシュランのお気に入りっ子だね、エンリコ。
和食店も1つ星に輝いた。
7区にある「あい田」。出来たのは4~5年前だったかな?鉄板焼きがメインの小さな店だが、使う食材がもう最高。パコーさんやパスカルら、3つ星シェフ御用達の肉店に毎日のように足繁く通って手に入れる素晴らしいフランス産牛肉を見事に焼いてくれる。魚の焼き方ももちろん抜群で、クリエイション系料理も美味。シンプルシックな雰囲気も居心地よく、とてもいい店。タイミングよく、JALの機内誌スカイワードの今月号に紹介されています。野地秩嘉さんの軽妙な文章で。JALに乗ったら読んでください。コーディネーションだけさせてもらった取材です。
リッツのエスパドンが相変わらず1つ星のままなのは、本当にどうかと思う。余裕で2つ星クラスだと思うのだけれど、あの純粋なクラシックに優しさをまとった料理は、ミシュランの好みではないのかもね。料理界の7不思議のひとつ、と数えられているエスパドンの1つ星、いつまで続くことやら、、、。
ラセールも2つ星のまま。3つ星エスポワールになってもいいんじゃないかなあ、と、冬に食べた恐ろしくおいしい野うさぎの血煮込みを思い出す。まあ、まだ時間はある。あと数年もすれば、フランス料理の歴史を彩ったこの名店中の名店が、新たに栄光をつかむと思うな、私は。
名前を消してしまったレストランの中で、最も胸が痛んだのが、ジャック・マキシマンの引退。
中学生のころに図書館で手にしたフランス料理の本の中で、とりわけ印象に残った料理人の名前。内容ももう覚えていないくらいだけれど、この名前だけは私の頭の中にしっかり刻まれ、いわば、フランス料理に興味をもったきっかけだった。
初めてフランスに住んだときは、マキシマンは休業中で彼の料理を食べることは叶わなかったが、会社を辞めた直後のヴァカンスでは、前年にオープンしていた彼の店を目指して、コートダジュールに駆けつけた。真夏の太陽を浴びながらのテラスでのランチは、15年くらいも前に文字を通して想像したとおりの味で、体中に幸せを感じた。
無条件に溺愛している初恋のシェフと、去年は、同じテーブルで食事をする機会や、話をする機会が何度かあり、特に一緒のテーブルに着いた時には、フランス料理に携わる仕事が出来て本当によかった、と心から思う数時間だった。
フランス料理界の鬼才、恐るべき子供、と呼ばれ、フランス料理のあり方に大きな衝撃を走らせたマキシマンがついに引退した。こんな料理人はもう2度と、料理界に現れないだろう。恐ろしいほどのテクニックと野蛮なまでの感性、そのなかに漂う南仏の悦楽。誰もが認める最高の料理人の1人でありながら、彼は一度も3つ星を手にしたことがなかったかな、多分。ネグレスコでも、彼の店でも。いつも2つ星だったと思う。
彼の料理を食べる機会があって、彼と同じ時代に生きられて幸せだ、と思わせてくれる料理人が何人かいる。ロビュション、ジラルデ、ゲラール、パコー、ヤニック、、、。マキシマンは私にとって、そんな料理人たちの中でも一番大切な人だ。
名前を消した、という意味で、ロワール地方の2つ星、ジャン・バルデの引退も感慨深い。初めてフランスに住んだとき、初めて訪ねた地方の星つきレストランだった。それ以来、つまり10年以上も前に行ったきり一度も再訪しなかったが、去年、バルデと一緒に食事をする機会があり、当時のことを懐かしく思い出した。
マキシマンやバルデといった、二昔前の名シェフが引退するのは、なんとも寂しいものがある。時代は流れるし、若い料理人たちがどんどん台頭しているのだから、これも当然のことなのかもしれないけれど。
料理人の最盛期がつづくのは10~15年、と、三田コート・ドールの斎須さんが言っていた、と聞いた。きっとその通りなのだろう。だからこそ、その旬な10~15年の間に、彼らの料理にきちんと向き合いたいと思う。演奏家と同じだね。
同じ時代をすごせた僥倖を受け止め、彼らがくれる幸せを感じたい。