mar.7 nov. 2006 Le Cinq
あの子がいなくなっちゃうまえに行かなくちゃ!11月初旬、あわてて「ル・サンク」に駆けつける。あの子の登場期間はやたらと短い。10月が旬なので、そろそろ姿を消してもおかしくない時期だ。
あわてて走ってきて(心の中では)、喉が渇いた。喉の渇きとあの子との再会を祝して、ここはやっぱりピンクシャンパーニュがふさわしい。この店で一番気に入っているアペリティフアミューズのグジェールが登場し、幸先がいい。今日はきっと、おいしいもの食べられるね。
それにしても、この店のグジェール(チーズとナツメグを効かせたシュー)、本当にイケルよね。パクン、パクン、もひとつパクン。
パトリスをはじめ、皆様とのご挨拶を済ませ、パンを選び、オリーヴオイルを愛で、料理を選ぶ。いつもと変わらぬ楽しく美味しい「ル・サンク」の儀式。
今日はね、料理選びがとても簡単。だって、アントレはもうあの子に決まっているのだもの。プラだけ選べばOKだ。
秋味がズラリと並ぶ料理から、リエーヴル(野ウサギ)のロティ、血入りソースを選択。来年から私は、「リエーヴル・ア・ラ・ロワイヤル友の会」という、野ウサギのロワイヤル風という壮大な料理の愛好家たちが集うクラブのメンバーに迎えられる。好きだけれどなかなか食べる機会がないリエーヴルを、これからは張り切って啓蒙しなければ!
アミューズを食べて賑やかにおしゃべりをしているところに、あの子が運ばれてくる気配がする。姿はまだ見えないけど、その匂いがサロンに広がりはじめる。
かなり細めの柔らかな生パスタ、なんていう名前だったっけ?これに、卵入り生クリームソースを添えた皿が目の前に置かれる。そしてあの子。馥郁たる匂いをプンプンさせている、アルバ産白トリュフ。
白手袋のセルヴール氏が、トリュフスライサーで丁寧に皿の上に散らしてくれる。もっと、もっと!お願い、もっともっと散らして~!
生温かいクリームとパスタに触れ、より強く匂いを立て始める白トリュフの、その匂いのひとかけらだって逃がすものか、と、いそいそとそして真剣に、フォークを手に取る。
アルバ近辺では、この食べ方は、白トリュフを味わう定番のひとつ、と読んだことがある。ここみたいな超高級店でいただくこの料理はもちろん素晴らしく美味だけれど、一度ぜひ、アルバで、もっと無骨にこの料理を食べてみたいものだ。白トリュフのために、イタリア語、勉強しようかなあ。
口内や鼻腔に立ち込めている白トリュフの香りに朦朧としているところに、今度はまたやけに雄々しく威風堂々とした香りの料理が運ばれてくる。ジビエの女王と呼ばれる野ウサギさんの登場だ。雄々しい料理だけれど、その気品ある肉は女性的と評されている。
繊細なヒレ肉を鮮やかなロゼ色に仕立て、フランス料理バンザイ!的な濃厚でしっかりした風味のソースを添えてある。内臓はフィレと合わせてタンバル仕立て、秋冬の果物をしっかり焼き付けたものが付け合せ。
まさに女王の名にふさわしい、細やかで柔らかい、まるでシルクとビロードを混ぜたような食感にうっとりする。噛むとサクンと優しい抵抗を感じ、その後に、ジューシーな肉の味が広がっていく。いいなあ、これぞフランス料理だねえ。
ロワイヤル仕立てに比べ、ワントーン軽くワントーンモダンな仕立ての野ウサギさん、なかなかのものです。
いつもながらに最高に状態のよいカトルオムさんのフロマージュを堪能し、赤い果物を添えたパンナコッタと、プチフールのショコラをたっぷりいただき、美食の幸せに酔いしれる。
美しいレストラン、楽しくエレガントなサーヴィス、最高の食材を使ったシンプルで品のある料理、きっちりセレクトされたワイン、そして仲よしの食事相手。素敵な食事時間を過ごすための全ての要因がきっちりそろった、それは素敵な秋のランチになったのでした。