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Channel: グルマンピュスのフランスレストラン紀行
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ミシュランフランス2008年速報①

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3月3日、8時5分、ミシュランフランス版2008年の公式リリースが到着。同じ時間、テレビのニュースには、ディレクターのナレさんが、嬉しそうにインタヴューに登場している。

例年同様、数週間前から情報がもれ始め、業界内ではあちらこちらで、あそこが上がる、ここが下がる、と噂話が花盛りだった。
そんな噂話をするたびに、胸が痛んだのは、去年も同様。去年は、尊敬する「タイユヴァン」が3つ星から落ちたが、今年は、愛する「ル・グラン・ヴェフール」がミシュランに嫌われてしまった。

「ル・グラン・ヴェフール」。20世紀中旬にフランス料理をおおいに啓蒙したレイモン・オリヴァが活躍した名門老舗。コレットが、コクトーが、バルザックが、カラスが、ユゴーが、雅この上ないこの店を訪れては美味のひと時を過ごしてきた。オリヴァ亡きあと2つ星に身をやつしていたが、90年代初頭、ギー・マルタンをシェフに迎えたのち輝きを取り戻し、2000年に改めて3つ星にその名を連ねた。
完璧としか言いようのないサーヴィス、他のどの店も絶対真似できることの出来ない歴史ある建物の内装、そしてギーの王道の中にも優しさとフェミニンさ、そして旅情を感じる料理。ひたすら気持ちのよい時間を過ごせる、大好きな店のひとつだ。
最初にこの店を訪ねたのは、1998年の12月だった。今でも覚えている。ワクワクドキドキしながら店に入ると、受付の奥にギーがいたのを。挨拶してくれて、自らコートを脱がしてくれたのを。この瞬間、私はこのボーギャルソン(ハンサム)シェフに心奪われた。ギーの人柄にも惹かれ、その後、この店を何度訪ねただろう。
新しいディレクターを迎えてからのミシュランが、ギーの料理を評価しない理由は、なんとなく分かる。はっきりとした強さ、鮮やかさ、躍動感、モダンさ、シャープ感、そんな言葉が似合う店が、今のミシュランは好きなんだろうな、と、去年の3つ星昇格店と降格店を見ると感じる。ギーの料理はエッジが立ってはいない、と思う。鳩やフォアグラなどの男性的な味付けの料理も、優しくいたわるような味わいに仕上げている。そんなふんわりしたおいしさは、今のミシュランには聴こえないトーンなのかもしれない。
敬愛しているギーのために、心が痛む。

アルページュも降格?なんていう噂もあったのだが、こちらはただの噂に終わり、心底胸をなでおろした。ギーと違った意味で、アラン・パサールの料理も、私は大好きだ。即興的で気まぐれでチャーミング。シェフの人柄そのまま。ひとつ間違うと、笑っちゃうような味になる危険性は確かにあるけれど、上手くいったときの完成度はこの世の天国。高らかに歓びを奏でるようなアランの料理。アルページュという名前にふさわしい、まさに音楽性溢れる彼の野菜や鶏、甲殻類がもたらす歓びは、音楽会がくれる歓びと同質だな、といつも思う。それも普通のオケの演奏じゃない。オケの3つ星ウィーン・フィルが奏でる弦楽だ。あー、違うな、ウィーン・フィルみたいな落ち着きと安定感はない。どちらかというと、この間北朝鮮で演奏会を行ったNYフィルみたいな躍動感ときらめきのある音だね。
そして今夜は久しぶりにアランのご飯。どんな極上の演奏を聴かせてくれるのか、とても楽しみだ。本当によかった、噂に過ぎず。でなかったら、今夜どんな顔して会えばいいのかわからなかっただろう。
ちなみに、アランが年4回日本でやっているフェアはハナマル。この間の1月、日本に行ったときにちょうどタイミングよくフェア中だったので、2度遊びに行って来たが、その料理のおいしさにびっくり仰天。フェアって普通、本店の味に比べるとかなりレベルが落ちるもの。なのにアルページュ・フェアは、あれ?この料理、パリよりおいしい?なんて感じるくらいのものがあるほど。素材力が100%に近いアランの料理。日本でも厳選した野菜その他の材料をしっかり集めているし、年4度という頻繁さもレベル維持に役立っているのだろう。パリの店に比べて半額以下の値段であの料理たちを味わえるのはすごい。次のフェアは4月下旬かな、多分。パークタワーにある「ブリーズ・ヴェール」にて。機会があれば、ぜひ行ってください。

降格話題はひとまずおいて、めでたい獲得話題に入りましょう。
今年の新3つ星は1軒。マルセイユのル・プティ・ニース。去年は、3つ星に最も近い2つ星、としての評価を受けていた店が、順調に3つ星昇格。フランス第2か第3の大都市に、初めて3つ星店が誕生した。
このランクに並んだ店は他にも、ボルドーのブドウ畑に囲まれたティエリのコーディヤン・バージュや、オリーヴの木々のふもとを歩き回るアントワネットちゃんの住処ラ・バスティード・サンタントワーヌや同じコートダジュールのシェーヴル・ドール、パリはクリヨンのレ・ザンバサドゥールなどの名前も並んでいたが、ジェラール・パセダのル・プティ・ニースが、そこから一抜けで超エリートレストランの仲間入りを果たした。
行ったことがないし、シェフとも話をしたことがないので、何もいえない。写真や映像を見る限り、いわゆるモダンな雰囲気をまとった南仏料理、に見える。行ってみたいね。
プロヴァンス地方に3つ星が誕生したのは、1950年代に栄華を誇ったウストー・デ・ボーマニエール以来という、50年以上ぶりの快挙!ボーマニエールが代替わりして2つ星になってからは3つ星がなかったのだ。あんなにおいしい地方で、良質な店がたくさんあるのにね。新しいシェフを迎えてリフティングに大成功したボーマニエールだって、またいつか3つ星になってもおかしくない店。近い将来、愛するプロヴァンスに3つ星が2軒、なんてことにならないかな。

ブリストルが、3つ星に最も近い“2つ星エスポワール”に上昇。これも嬉しい。今年一年、ブリストルの連載を専門料理に掲載している。エリック・フレションは、一新した厨房で嬉しそうに料理と向き合っているし、なんてったってあのローラン・ジャナンがシェフ・パティシエに就任しているんだもの、来年、再来年にチャンスが到来する可能性は少なくない。次に取材に行くのが今から楽しみだ。

新2つ星では、ロビュションのラトリエに注目。ラスヴェガス、東京で次々と3つ星を手中に収めた巨匠。これで、パリにある2軒の店はそろって2つ星となった。脱帽するのみ。

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