mer.29 nov. 2006 Relais Bernard Loiseau
ベルナール・ロワゾーが生きているうちに、ソーリューを訪ねる機会はなかった。残念なことに。なのでこれが、今は亡き偉大な料理人のエスプリに触れる最初の日。
ロワゾーが亡くなった後、この偉大な店を閉めずに盛り立てたのは、マダムのドミニクと当時スゴンだったパトリック・ベルトロン。この2人の努力のおかげで、あの事件から数年たった今もこの店は、「コート・ドール」から「ルレ・ベルナール・ロワゾー」と名前は変えたが、ミシュランの3つ星を維持している。
カルトには、ロワゾーの作品とベルトロンの作品が半々くらいずつ載っている。初めてのディナーは、それぞれのシェフの作品をふたつずついただく。
さすがは本場、うっとりするような美味しさのグジェールが、カクテル時間のアミューズに出てくる。このあと食事が待っているというのは分かっていても、どうにも食べるのが止まらない、傑作グジェール。
お腹がすでに半分くらい一杯になった状態で、ようやく料理を迎える。ロワゾーの名前を不動にした、水の料理の代表作、カエルのポワレ、パセリソース、ニンニクピュレ。パセリとニンニクの風味が凛と際立ち、食感は嘘のように軽い仕上がり。想像通りの素晴らしさだ。この料理、主役は絶対カエルじゃない。そりゃ確かに、カエルの味もジューシーで美味。でもあくまで、パセリとニンニクの軽やかな風味を楽しむための脇役だ。
続いてパトリック作品。ホタテ、カキ、クトーの貝3種のナージュ風にポワロー。あはは、しょっぱなから相性悪いなあ。火が入ったホタテはあまり好みでないし、カキはフライ以外めったいに食べないし、クトーにも心震えたことのない私には、どうにも取り付く島のない料理。食材が好きでない以上、好きも嫌いもあったものじゃない。残念だけど。
続いてロワゾー再び。これもまた彼の傑作料理だった、スズキ系魚の赤ワイン、タマネギコンフィ。美味。思ったよりもずっとあっさりした仕立てのワインソースの芳しさとタマネギの甘さが、カリリと香ばしく火を通された魚にぴったり。あわせるボーヌのプルミエクリュ(ドメーヌ・ジェルマン)がまた、ブルゴーニュバンザイ!な美味しさで、料理をピカピカに引き立てる。
さぞかし美味しかったんだろうな、ロワゾーが作った料理。この味で、どうして3つ星を奪われる、なんて思ってしまったんだろう、、、。
秋の鹿の料理は、最初のパトリック作品よりはずっと美味しく食べられる。このシェフ、キュイッソン、上手だ。魚もよかったし、貝たちも、少なくとも火加減はいい感じだった。一緒に味わうポマールのプルミエクリュ(ミシェル・ゴヌー)は涙もの。あまりに美味しく、鹿がかすむ。
エポワスやアベイ・ドゥ・シトーなどのより抜きブルゴーニュフロマージュにコシュ=デリのムルソーをあわせた瞬間が、この夜最高の一瞬だった。なんて言っては、おいしい料理に申し訳ないが、本音かもね。完璧な熟成を見せるフロマージュと、ブルゴーニュの王者が作る偉大なワイン。生きててよかった、と思う瞬間。
おやつは、なんだったかもう忘れてしまったけれど、こちらもまた、一緒に口に含んだワインは忘れないよ。オーストリア産の貴腐ワイン。もうね、おやつなんていらない、これだけで完結しちゃった美味しさ。
とまあ、ワインのよさが全面的に引き立ってしまったディナーではあったけれど、カエルとサンドルに宿った、ベルナール・ロワゾーのピュアな魂は、きっちり感じた。
この魂を、あとどのくらいの間、正確に伝えていけるのだろうか?マダム・ドミニクがいて、生前のロワゾーとともに働いた料理人やサーヴィススタッフがいなくなる時が、ロワゾーの味が消えてしまうときなのかもしれない。
まだ遅くはない。マダム・ドミニクがこの店に立っている間に、もう一度ぜひ訪ねたい。今度は、ロワゾー作品の料理だけを食べに。