jeu.25 jan. 2007 Les Elysees
一度好きになったら、そう簡単には離れなれない。レストランや料理人ってそういう対象だ。何度でも何十回でも行きたくなる。他に好きな店ができても、やっぱりここにも戻ってきたい。
昔、そんな風に通ったのが「イヴァン」と「ラ・ビュっト・シャイヨ」だった。古くて懐かしい、レストランにはまったきっかけを作ってくれた2軒。今はさすがに、あんなふうに濃厚なレストランとの付き合い方は出来なくなってしまったけれど、それでも、比較的定期的に通っている店はいくつかある。「レ・ゼリゼ」もそんな1軒だ。
店に通っている、といってはいけないね。この場合は、エリック・ブリファーの料理を食べに来ている、と言いたい。彼の料理に惚れているのは、「レ・ゼリゼ」の前、「ル・レジャンス」時代からだもの。幻になった「ル・レジャンス」は、料理はもちろん、その他全てのパーツにおいても、完璧に近い極上の店だった。今でも、思い出すと涙が出そうなくらい、本当に素敵な時間をくれた。
今の「レ・ゼリゼ」では、料理以外のパーツは、正直なところ、「ル・レジャンス」に比べると、ガンバレ!と言いたいところもあるが、店のスタンスが違うんだからしかたない。ブリファーさんの料理が食べられるだけでも幸せだと思う。
そんなことを考えながら、「ル・レジャンス」時代からの、アペリティフアミューズ、イカとエビのアクラをかじる。揚げたてフライにキュッとレモンを絞ってサクリと噛んだところに、柔らかな味のピンクシャンパーニュを流す。
幸せな時間。
赤ピーマン&グリーンピースのムーススープ、トリュフを添えてパートフィロで巻いたラングスティヌのフライ、大のお気に入りのグリッシーニと、この店らしい味をリズムよく食べて、お腹がいい感じにこなれ来たところで、アントレの登場だ。
甘く炒めた新タマネギに、たーっぷりの黒トリュフとポワローを重ねたサクサクタルト。タマネギの強く温かな甘味にトリュフの匂いがねっとりと絡みつき、濃厚で香り高い料理。バターの風味がとてもよいフイタージュが、トリュフの匂いをさらに引き立てている。
新タマネギのムースにトリュフをあしらい、オリーヴオイルやハーブで香りを引き立てたムース料理も素敵な味。同じ食材の別展開料理だね。
どちらも、丁寧な仕事に裏打ちされた軽やかなのに奥深い風味、と言う感じで、この料理人の職人気質な面がはっきり出ている。
おなじみの、レタスフラン&カニ&アーモンドの一品を挟んで、今日のゴチソウはアニョーちゃん。ボルドーの極上ブドウ産地で生まれたばかりのヒヨヒヨ仔羊の肩肉だ。
様々な香辛料やニンニク、ハーブの風味とともに、18時間もかけてゆっくりじんわりスチームオーブンで骨付きの大きな塊のまま焼いた仔羊は、香りも食感も味も最高。ジゴ(腿)に比べて脂分が多いので、長時間調理にむいているんだって。
スパイスをまとった濃厚なソースの甘味と仔羊ならではの独特の香りが一体となって、口に広がる瞬間、思わず満足のため息をつく。決して肉を疲れさせず、ぬるま湯の中で眠っちゃった、とでも言いたいような、柔らかくとろけるような肉の食感と味にうっとりする。
こういうシンプルながらも手間隙がかかった大物料理って、なかなか高級店で食べられないだけに、感動ひとしおだ。
付け合せのアスパラガスやニョッキは、この際なくてもいい。そのくらい、印象的な美味しさを見せてくれた仔羊の肩肉。
クラシックなババはゴロンと大ぶりで。たっぷり4人で食べられそうな大きさだけれど、2人分。全部食べきれたためしがないのが悲しい。
いろいろな果物で作ってくれるけど、今日は、クレオル風にラムレーズンやマンゴー味で。しっとりとラムシロップを吸った生地は口の中で汁気がジュワ~ッとあふれていく。ヴァニラ入りの柔らかなクリームが、溶け崩れそうな生地をやさしくホールドしていて、両者の組み合わせも絶妙だ。
いつか絶対このお菓子を食べきってみたい、と思いつつ今日もまた、ご機嫌に美味しいマンゴーのソルベを食べながら、半分残ったババを見送る。
この店に来るといつものことなのだけれど、お腹がまた張り裂けそうになってしまった。量が多いのだろうか?アクラを食べ過ぎちゃうんだろうか?大好きな味に興奮しちゃうんだろうか?
ブリファーさんとおしゃべりしながら、左手でお腹をさすり右手でミントのお茶をすする食後のひと時。
職人的な仕事をまじめに誠実に、時にはかたくななまでにこなす、正真正銘の料理の職人。最優秀職人賞(MOF)という称号がよく似合う料理人だと思う。
今年のミシュランで2つ星に返り咲いたのは当然だ。そもそも、1つに落ちたのがヘンだったもの。
1999年10月、この人の料理とめぐり合えた幸運を、今でも感謝している。