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12月12日ル・ブリストル

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mar.12 dec. 2006 Le Bristol

リエーヴル・ア・ラ・ロワイヤル。野うさぎの王風。
歯が悪く、口から鼻にかけての病気もあった大食漢王、ルイ14世のために発明された料理。寝とぼけてばかり(であろう)普通の食用ウサギの鶏肉みたいな白肉とは何の共通点もない、たくましく野を駈ける野生ウサギの肉は、筋がしっかりついた赤肉。ジビエの女王と呼ばれ、秋から冬の初めにかけて珍重されるご馳走肉だ。
ア・ラ・ロワイヤルは、赤ワインと野ウサギの血でソースを作る、クラシックフランス料理。手間隙がかかるので、最近はこのご馳走を食べられる店が減ってしまっている。

そんなリエーヴル・ア・ラ・ロワイヤルを愛し、この歴史的料理を啓蒙するのを目的にした、リエーヴル・ア・ラ・ロワイヤル愛好会がある。フランスはクラブ好きで、ワインやチーズ、料理やお菓子と、多種多様な愛好会が存在するが、これもそんなクラブのひとつ。10年ほど前から活動していて、毎年季節になると3つのレストラン(パリ近辺のガストロとビストロ、地方のガストロ)でこの料理を中心としたディナーパーティーを開催し、シーズン明けには総会で“リエーヴル・ドール”という、いわば今年の最高リエーヴル・ア・ラ・ロワイヤルを選出し、店を表彰している。歴代優勝店には、吉野建さんの「ステラ・マリス」も入っている。残念なことに、ここの作品はまだ食べていないけれど、メンバーの大多数が歴代最高のア・ラ・ロワイヤル!と絶賛しするしろもの。時期が短いので毎年食べそびれているけど、今年こそ味わえるといいなあ。

そんな、野うさぎ料理を愛でるクラブと偶然の付き合いが始まり、光栄にもこの愛好会に迎えられることになった。これからは張り切ってこの雄々しく気高い料理の啓蒙に励まなければ!

06-07年のア・ラ・ロワイヤルは、ストラスブールの「ル・クロコディル」、パリ郊外の「ル・マンダレイ」と続き、今夜の「ル・ブリストル」が、最後のディナー会。
シェフ・エリックの、クラシックフランス料理の高い技術力と持ち前の味覚をもってすれば、それは見事な作品が出来上がるに違いない、と、ウキウキしながら「ル・ブリストル」に駆けつける。

結果から言えば、エリック・フレションという料理人のスゴさを久しぶりに満喫できた食事だった。

アントレは、クリとリエーヴルのヴルーテ。こっくりとしたクリの濃くと、これぞフランス料理の基本!とうなってしまう極上のフォン、それにリエーヴルの内臓を詰めたラヴィオル。五臓六腑に美味しい味のエキスが染み入るような、直球勝負の堂々たる料理。
これがやっぱりフランス料理だよなあ、としみじみ思う。シンプルに作るビストロ料理も素敵だし、才気ばしったクリエーション系料理もよいけれど、たまにこういう王道料理を食べると、自分の足元をしっかり見つめなおせるというか、フランス料理を味わうときのベースになる味を確認することができる。
おかわり欲しかったな。

プラもまた、エリックに拍手!
フィレをコンガリロティして、味も香りも食感もただただうっとりするばかりのロワイヤル風ソース。これに、ひどく美味しいニョッキとベーコン、トロトロのピュレ、トリュフが添えられている。
リエーヴル・ア・ラ・ロワイヤルを食べつくしているメンバー諸氏に言わせると、これは正確には”ア・ラ・ロワイヤル”とは言えない、とのこと。確かに、調理法はオーソドックスなものではなく、フィレロティのロワイヤルソース、という方が似合った料理。
でもそれはそれと置いておいて、一皿の料理、としてみると、そのおいしさに舌が振るえる。
サクンとした食感の野うさぎのフィレは、この高貴な獣の生前の姿を偲ばせる。なんてエレガントでなんてワイルドでなんて繊細なんだろう。ソースの見事さは、言うまでもない。クラシック料理バンザイ!エリックバンザイ!だ。ソースをたっぷり絡めて食べるピュレもうっとり。一口ごとに10年長生きする気がするなあ。

旬のモンドールは、プ~ンと匂ってトロンととろけているところをスプーンですくって皿においてくれる。トリュフと和えたマーシュのサラダとともに、とてもよい口直し。

シャンパーニュ、南西部の赤、ブルゴーニュの赤と進行してきたフランスのワインはここで琥珀色のハンガリートケイに場を譲る。
可愛らしいプチフールに続いて運ばれてくるのは、ジルちゃん特製モンブラン。

ジルちゃんは年明けから、「ル・ブリストル」を辞めて、ランクスさん率いる「ラ・メゾン・デュ・ショコラ」のクリエーションディレクターに就任する。
初めてジルちゃんのおやつを食べた7~8年前の冬を思い出す。マンダリン尽くしのコンポジションだった。一目ぼれならぬ一口ぼれしたジルちゃんのお菓子を、その後どれくらい食べただろう。いまだに、世界最高だと思っているいちごのソルベ、カミーユが負けちゃうくらいのカヌレ、、、、。いつだって、心震えるおやつを食べさせてくれた。
このモンブランも、ジルちゃんの傑作のひとつ。強い甘味にもかかわらず決して食べ飽きることのない絶妙な味わいのモンブランを一口ずつ食べながら、この店で食べる最後のジルちゃん作品をしっかり舌に記憶する。

ジルちゃんがいなくなる、と聞いて泣きに泣いたけど、後任の名前を聞いたとたん、涙は一瞬にして乾き、代わりに私はタラララ~と小躍りした。
だってさ、後任さ、誰かと思ったら、ローランなんだもん。
ローラン・ジャナン。「ル・サンク」の初代パティシエ。ジルちゃんを初めて食べたときにも心臓がドキンとしたけど、ローランのおやつと初めてめぐり合った夜、私の心臓は本当に一瞬止まった。その味わいとその構築美に狂喜した。たった2年くらいしか「ル・サンク」にいなかったローラン。そのあとは、パリで彼の珠玉のおやつを食べる機会はなくなり、早く復帰して欲しいなあ、と思いを募らせていた。
間違いなく、私にとってのパティシエベスト5に入る職人のローランが、修業時代の先輩だったジルちゃんのあとを埋める形で「ル・ブリストル」に入り、数年ぶりにレストランに復帰する。
もう今から、いつローランのおやつが食べられるか、と私の心はそれで一杯だ。

「ル・ブリストル」は年明けから3月末までリニューアルのために閉鎖する。3月末に新しくなった厨房で活躍するシェフ・フレションと、その横にあるパティスリーで采配を振るうローランに会えるのを今から楽しみに、「ル・ブリストル」のジルちゃんとアデューをする、素晴らしく美味しくも、ちょっぴり寂しい夜。

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